【不親切なアニメ評】『薬屋のひとりごと』総合評価◎-恋愛以外は申し分なし-

当ブログのアニメ評は、ネタバレありきで話を進めます。しかし、詳細に内容を記載しているわけでもありません。実際にアニメを楽しんだ人向けに書いています。ですから、一度観た前提で突然感想を述べていくという大変不親切なアニメ評です。

かん

アニメをお楽しみになってからご覧ください!

目次

作品概要

タイトル:『薬屋のひとりごと』

原作:日向夏

ジャンル:宮廷ミステリー、恋愛

放送:第1期 2023年10月-2024年3月

   第2期 2025年1月-10月

舞台は中国然とした架空の宮廷。主人公は薬学の知識を持つ平民の少女、猫猫マオマオ。持ち前の知識と冷静さで、周囲に巻き起こる謎を次々と解き明かしていく。

2026年に第3期の放送と映画公開が決定している。

良かった点

かん

良かった点がありすぎる!素晴らしいアニメでした。

またしても傑作、Mrs.GREEN APPLE

以前のアニメ評で『炎炎ノ消防隊』を取り上げたのですが、『炎炎』のMVPはMrs.GREEN APPLEのOP曲でした。アニメ史に残ると言っても過言ではありません。

そのMrs.GREEN APPLEが、またしても!傑作を生みだしております!

第2期第2クールのオープニングです。映像との親和性も素晴らしく、曲の終盤で月明かりに照らされる壬氏は神々しさすらありました。壬氏に添えられる歌詞が「まるで夜の太陽ね」。

かん

はい、優勝!!!

第1期OPの「花になって」も曲は良かったのですが、映像に難ありでした。

「猫猫がただクネクネ踊っているだけ」という印象しか残らず…。半端にクネクネするだけであれば、静止画の連続の方がまだ格好よく決まったのでは、という所感です。途中のぎこちない舌なめずりも謎でした。

かん

皆様はどのような感想をお持ちになったでしょうか。

「花になって」も一応映像をお借りして貼っておきます。

緻密な構成

本作品には、登場人物が沢山出てきます。帝の妃だけでも、主要な人物が4人!それぞれに侍女がついていたり、家族がいたりと、なんやかんやで膨れ上がるキャラたち…。

しかし!どのキャラも必要不可欠、無駄なくストーリーの要となっていきます。

それでいて、破綻していません。彼らの立ち位置や思惑が、巻き起こる謎を解決する重要な手がかり、道しるべにもなるのです。驚きの構成力です。

しかも、一つ謎が解決したと思ったらまた次の謎…その事件たちが幾層にも重なり、大きなうねりとなっていくのです…!物語の重厚感が素晴らしい作品です。

舞台の作り方も見事。唐・宋あたりの中国文化を彷彿とさせつつ、完全に中国を模しているわけでもありません。しかし土台がしっかりしているので、世界観が破綻することもありません。換骨奪胎の見本とも言える作り方だと思います。

説得力のある人物描写、心理描写

各キャラの基本的な性格はもちろん、「なぜそう考えるに至ったのか」の背景が巧みに説明されます。相当に嫌な奴に対しても、「そんな環境で育ったら、まあ性格捻じ曲がるよね…」といった同情の余地も生まれます。

かん

情状酌量の余地なし!ってキャラもいます(笑)。

時代に翻弄されるキャラ、時代に負けず毅然と振舞うキャラ、憎めないキャラ…登場人物の幅広さにも注目です。外見だけでなく、内面の描き分けも見事なのです。「いるよね、こういう人」と思わせる、説得力ある作り込みにリアリティがあります。

巧みな駆け引き、知略戦

本作品の要とも言える「謎解き要素」。推理小説とは少し異なります。物理的に「秘密の鍵を探す」と言ったミッションも出ては来るのですが、より面白いのは猫猫の深い人間考察です。各キャラに対して「彼・彼女が何者なのか」「なぜこのような行動を取ったのか」「そうまでして守りたかったものは何なのか」――キャラの言葉や行動の端々をヒントに、全貌が徐々に明らかになってくるのです。

よくある推理ものと違い、猫猫は「犯人はお前だ!」みたいな探偵ごっこはしません。「ひとりごと」あるいは「上司である壬氏への報告」という形で大体が完結します。「本当のところは分からないけれど」という前提で進みますが、ほぼ猫猫の仮説通りでしょう、という落としどころです。

また、壬氏へ報告する際も、一部の事実を伏せたりします。首謀者に、必要以上に重い罪が課されないようにという配慮です。特に平民は、いとも簡単に命を奪われるという時代設定なので、猫猫の配慮は、今を生きる私たちの心を打つものです。

キャラの魅力

なんと言っても主人公、猫猫の作り込みが素晴らしいと思います。

一昔前の少女漫画などですと、「明るいだけが取り柄のドジキャラ」がヒロインの王道でした。そしてなぜか、学校中で人気のイケメンお兄さんが、ほぼ何の取り柄もない主人公を勝手に好きになってくれるのです。

かん

人の足引っ張るだけの陽キャって、現実にいたら普通に迷惑。

ただただ「なんの努力も向上もしない等身大の自分を好きになってほしい」という、ワガママ全開の夢展開です。冷静に考えたら分かりますが、そんなポワポワした夢は現実では叶いません。

かん

フィクションにも、限度はあると思うんです。

猫猫は違います。過酷な境遇ゆえでもありますが、地に足が着いたものの考え方、行動をとります。明晰な頭脳と培った知識で、王宮の危機を軽やかに救います。猫猫を取り巻く環境は、物語が進むにつれ次第に改善されていきますが、それは、誰でもない猫猫自身が勝ち取ったものなのです。B級少女漫画のお家芸「ご都合主義のタナボタ展開」はありません。

立ち位置、考え、境遇、距離感。どれもに共感できるからこそ、視聴者は猫猫を支持し、応援するのでしょう。

最近になってやっと、地に足の着いたリアルなヒロインが、メインで登場してくれるようになりました。

かん

嬉しい気持ちでいっぱいです!

猫猫だけではなく、魅力的なキャラは他にも登場します。育ての親、実の父親、ヤブ医者に至るまで…詳しくは作品を観れば一目瞭然ですが、どのキャラにもキャラごとの魅力があります。それぞれに多様な魅力なのです。「魅力」を一律にテンプレ化していないところも、作品に奥行きが出ている理由だと思います。

声優のキャスティング

声についても、猫猫が大正解、大成功だったと言ってよいと思います。冷静沈着さと少女のあどけなさが両方必要なので、高すぎても低すぎてもいけません。特に、アニメ界特有の女性キンキン声はもう、一発退場レベルで不正解です。

かん

キンキンは度が過ぎると頭痛を引き起こします。

猫猫は、落ち着いていて透明感のある、涼やかな、それでいて愛らしさも共存する声。素晴らしい配役でした。

かん

CVは悠木碧さんです。

他のキャラも、イメージをぶち壊すような配役は特になかったと感じます。かといって、例えば「嫌味な女はこうだよね」といった思考停止のテンプレ演技も特になく。それぞれがキャラの特徴を掴み、よく馴染んでいたように思いました。

気になった点

かん

基本的に絶賛ですが、気になる点も容赦なく書くスタイルです。

なぜか恋愛要素だけお花畑

主人公・猫猫と宮廷の要人・壬氏との恋愛も見どころの一つではあるのですが、進展の仕方がどうにもこうにもファンタジーなのです。

例えば第2期11話。猫猫と壬氏は、敵の謀略により銃撃を受け、滝つぼへ落下してしまいます。

通常であれば即死あるいは溺死ですが、愛の力で滝の裏側の洞窟へ避難。洞窟を脱し地上に出るには目視3mほど。つまり、2人は閉じ込められてしまったわけです。

かん

出ました、恋愛ラッキーハプニング。

壬氏の肩に乗り、とりあえずの脱出を図る猫猫ですが…。はい、もうお分かりですね。

バランスを崩し、揃って転倒。抱きしめ合う形になる2人!!

かん

もういいのよ、こういうの(泣)。

ラッキーハプニングがないと、恋愛は進展しないのでしょうか。

そんな奇跡はほぼ起こらないと知っている現実世界の私たちは、一体どう受け取ればよいのでしょうか。私は無表情で立ち尽くすばかりです。

せっかくリアリティのある人間模様が描かれていたストーリーなのに、恋愛が絡むと一気に、ファンタジー要素満開のご都合展開が襲ってくるのです。

漫画とか小説を書く人に私は問いたいのです。

奇跡が起こらないと距離は縮まりませんか?

段階踏んだ進展を面倒がってハプニングで片付けるの、やめてもらえませんか?

泥臭く行動しまくって恋愛成就をやっとこさ叶えてきた現代社会の私たちは、どうすればいいんですか?

…というのが『薬屋のひとりごと』に対する唯一と言っていい不満となります。

かん

お花畑が大好きな方もいるから、難しいですけどね。

せっかくなら恋愛も、「原因があって結果がある」「因果に説得力がある」武骨でリアルな組み立てを見てみたかったですよ。

頑張れ、壬氏!!

猫猫無双問題

恋愛以外は蛇足となりますが、少し引っかかった点を書いていきます。

作り手の思惑だと思うのですが、猫猫を貶めないことに必死になっているように見受けられます。

第2期15話。猫猫の友人の女官が、前方不注意で商人とぶつかり、妃への献上品を壊してしまう場面。

前方不注意の理由は「後ろを向いて猫猫と話していたから」なのですが、ストーリーは「猫猫は悪くない、猫猫は関係ない、でも友人の女官を善意で助けてあげる」といった方向に舵を切って進みます。猫猫は前方を見ていたのですから、進む先に献上物を運ぶ商人も見えたでしょうし「危ない」と注意喚起することもできたはずですが、そのあたりの追求はされません。無双です。

他にも、事件巻き込まれ型の猫猫なので、知人友人を救うために奮闘することがほとんどのケースです。そのたびに「私は関係ない」「猫猫は関係ないではないか」といった「無関係を強調する声」が前置きとして必ず登場します。わざわざ言わなくても見てる側は分かるよ、と若干ウンザリする頻度です。無双です。

たまに顕在化する壬氏の無能疑惑

前述の通り猫猫が無双をキメているので、対する壬氏も無双だとリアリティが皆無になります。自然、壬氏は多少のしくじりが描写されてしかるべき、となるのですが、「しくじり」を通り越して「無能」に見えてしまう場面がいくつか。

第2クール終盤では、国同士の衝突、つまり戦が起こってしまうのですが、やんごとなき身分の壬氏はなんと、先頭を切って敵陣へなだれ込むのです。

かん

大将が先陣切ったらあかん!!!迷惑!!!

どんなに戦力で優位に立っていようと、大将の首が取られた瞬間、戦の形成は逆転してしまうのです。まして壬氏、こういった大戦は初めてのはずです。百戦錬磨の曹操1ならいざ知らず、初陣が疑われる壬氏ではダメです。

かん

ダメ、絶対!

さらに、敵の砦へ侵入した後、敵側の言いなりとなって1人ノコノコ別部屋に誘導されてしまいます。

かん

超迷惑!!!

壬氏をお守りする部下の身になってください…。壬氏の部下・李白が物申していた通り、壬氏の行動は迷惑以外の何物でもありません。敵の情にほだされて自分の部下に危害を加える上司…。壬氏が怪我を負えば、部下が責任を問われますからね。

かん

敵側の事情を察していたとはいえ、無傷で済むわけないですからね!

元々、壬氏は優秀な人物(という設定)です。所々で人間らしいミスが出るのはやむを得ないにしても、国の未来を左右するレベルの暴走をするのはキャラ崩壊なのでは、と感じました。

1.曹操…三国時代の中国で活躍した武将。三国の一つである「魏」を統治し、後の繁栄の礎を築いた政治家でもある。超優秀。

漢字表記プリーズ

原作を読んでいない、漫画を読んでいない層にも分かるように…という配慮は随所に感じられました。しかし一点だけ、希望したいことが。

オードー妃とかリファ妃とか、アニメの会話のみだと漢字表記が分からないのです。

EDのクレジットでは出てくるのですが、初登場時点で「阿多妃」「梨花妃」と表記が分かるよう、何かしらの工夫を入れてほしかったなあというワガママな要望です。せっかくですから、どんな字を書いて、その字がどんな意味を持つのか、世界観を最初に理解したうえで視聴を進めたかったですね。名前の表記が謎解きの重要な手がかりになる事件もありましたからね。

かん

リファさんは辛うじて想像ついたけど、オードーさんは無理でした。

総評

かん

素晴らしい作品をありがとう!!!

『薬屋のひとりごと』を世に出してくれた原作の日向夏様、ノベライズしてくださった出版社の方々、漫画化、アニメ化へ向けて動いてくださった方々。多くの人々のおかげで、ボーっとしている私のもとにもこの傑作が届きました。本当にありがとうございます。

恋愛要素以外は不満なし、と最初にタイトルを打ったにも関わらず、予想外に壬氏をこき下ろす結果となってしまいました。

かん

申し訳ない!

作品内でも、猫猫と比べるとあまり擁護されない壬氏…。不憫です。

かん

頑張れ、壬氏!!君は皆から慕われているのだから!

2025年末時点で、アニメ第3クールの放送に加え、映画化も決定している本作。更に楽しみが募ります。

まとめ

「面白いけど漫画原作とはちょっとテイストが違うな。設定がライトノベルっぽいな。」と思い調べたところ、「小説家になろう」2の投稿が原作だったと知りました。受け手を魅了するコンテンツは、掬い上げられ世間に流布する世の中になったのだなあ…と感慨深い気持ちになりました。インターネットを通じて、誰もが作品を世に出せる社会になったため、「良作が世間に気づかれずに埋もれていく」という悲しい現象はだんだんと少なくなっていくことでしょう。

編集者やプロデューサーといった「媒介」がだんだんと不要になっていく?という恐ろしさもあります。

私たち受け手が、ダイレクトに「面白さ」を選べる時代になってきたのかもしれません。

だからこそ、面白いものは面白い!と、何ものにも縛られず、率直に叫んでいきたいと思います!

かん

面白くないものは面白くない!と率直に叫びます。

2.「小説家になろう」…日本最大級の小説投稿サイト。

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